僕様☆天体系

小説を置く場所

会社員のリュック情事

その日はやけにひどい酷暑で、35度以上を記録していたと、ニュースでやっていたはずだ。
友達と遊ぶために、駅前へ行く。
バスのなかは冷房が利いていたので、ありがたく涼ませてもらい、目的地で降りたら、遮蔽するものが全くなかった。
オゾン層って暑さを控えるためだったのかと思案するが、正直に言って何もわかっていない。ああ、思考するのすら、面倒くさい陽気だ。

 

改札までのエスカレーターを登っていると、目の前にリュックサックを背負った、サラリーマンがいた。
しかし何かがおかしい。背負ったそれは真っ黒な布で、形は四角い、両肩にはベルトが付いている。外側には大きなポケットがひとつ。
何ひとつ文句の付け所のない、立派で硬派な作りの、リュックサックだ。

 

ふと目線をそらすと、メインポケットのジッパーが全開になっていた。
違和感の正体はこれか。

 

あの立派で硬派な作りのリュックサックが、だらしなく口を開けているのは、さながらロールキャベツ男子と言ったところではなかろうか。
パッと見で、僕は安全ですよ。と、誠実さを匂わせておきながら、ふたを開けると、ふしだらなそれだ。

 

筆者は思うのだが、リュックサックのジッパーがフルで開いているのは、自分の頭のなかをさらけ出し、かつ、下着もつけていないようなだらしなさが感じられる。
端的に言えば、頭も下半身もガバガバなのだ。

 

リュックサックは、個人の空間である。
自室であり、本棚であり、トイレであり、スマホのアルバムであるような、完全なプライベートスペース。
私生活どころか、頭の中までわかってしまう。
それを意図があるかないかに関わらず、全てさらけ出してしまうのは、下着も着けずに出歩くような状態なのだ。
1番大切なところを隠せていない。
うっかり隠せなかった、オチャメさんなのか、意図的に隠さなかった、露出狂なのか、それはどうでもいいのだけれど。
ともかく、大事な部分を大多数に見て欲しいのだろう。そう解釈しておく。

 

こう言う場面で、ジッパー開いてますよ。と、言うべきなのだろうが、筆者は言えない事が多い。
だって、あなたパンツ履いてませんよ。なんて言うのは、ハードルが高いだろう。
だから、申し訳ないけれど、大口を開けたまま人生を歩んでもらうことにする。

 

そんな表現を、どこかにありそうだなと感じつつ、でもやっぱり下着無しで歩くって的確な表現だよね、なんて思いなおす。

そういうわけで、筆者はだらしなさを人前に出さないよう、毎日リュックサックのジッパーを、丹念に確認するのである。